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3.JAXA/ISASにおける研究・業務
最初に研究活動について述べます。研究対象の第一は月遷移軌道です。まず月遷移軌道の基礎的研究として、2インパルス月遷移軌道の特性についての研究をおこないました。射点から月までの地理的・幾何的関係を考慮した実用的な問題に対し、問題と解空間の構造、最適解の特徴、最適解周辺の諸量の感度等を明らかにしました。次に、月同期軌道を用いたロバストな月周回軌道投入方法の研究をおこないました。月周回軌道投入が何らかの理由で正常に実施されず、探査機が月をフライバイすることになった場合でも、月と再会合するような軌道(月同期軌道)に探査機が投入されるような接近軌道をあらかじめ設計しておくという考え方を提案し、その軌道設計方法を明らかにし、軌道設計例を示しました。
研究対象の第二は小惑星探査の軌道設計です。まず取り組んだのは、小惑星マルチランデブー・サンプルリターンミッションの探査シーケンス構築方法の研究です。ここでは弾道飛行とスイングバイを組み合わせたシーケンスを対象として「軌道部品接続法」と呼ぶ効率的なシーケンス構築方法を確立しました。これにより探査対象小惑星、探査順序・時期、スイングバイ順序・時期の膨大な組み合わせを大域的・網羅的に探索し、軌道力学的な面での実現性が高いシーケンスを見つけ出すことが可能になりました。次に、電気推進とスイングバイの使用を想定した小惑星サンプルリターンミッションの詳細軌道設計についての研究をおこないました。前述の方法で構築された探査シーケンスをベースに、シーケンスを構成する区間ごとに最適制御問題を構成し、それを非線形計画法に組み替えた上で逐次二次計画法で解くという方法を用いました。また、これらサンプルリターンミッション関連の研究と併行して、ピギーバック打上による地球接近小惑星(NEO)へのフライバイ探査の軌道設計についての研究をおこないました。これは静止衛星打上ミッションに相乗りし、装着した固体モータにより地球を脱出して小惑星に向かうという設定の「最小規模の惑星間ミッション」です。打上日時、出発軌道、増速度が指定されるという制約された条件下でも、脱出時刻と増速度方向を適切に設定することで小惑星にフライバイするような軌道が設計可能であることを示しました。
研究対象の第三は深宇宙探査OTVです。深宇宙探査OTVとは、深宇宙探査において打上後の軌道間輸送を専用に担う輸送システムのことです。深宇宙探査ミッションに必要な2つの機能、すなわち「目的地への移動」と「目的地での探査活動」を実現するシステムを分けることにより、「目的地での探査活動」を担う探査機については探査活動に最適化された設計が可能になり、また「目的地への移動」を担うOTVについてはシリーズ化による設計の成熟やコスト低減が可能になります。この研究では深宇宙探査OTVへの機能・性能要求を明らかにしました。
これらの研究に加えて、他研究者との共同研究として「小惑星マルチフライバイ探査「小惑星インタセプタの航法誘導「LEO-L2間の軌道設計」の研究にもたずさわりました。

次にJAXA/ISASのプロジェクトへの寄与について述べます。まず赤外線天文衛星「あかり」の打上・初期運用に衛星班・姿勢制御系担当として参加しました。「あかり」の初期運用では搭載された2つの太陽センサの視野が隠されるというアクシンデントが発生しましたが、その状況下で観測態勢を確立し、姿勢系を再構築して安全な運用を確保するというリカバリー運用において重要な役割を果たしました。その後「あかり」は順調に観測を続け、無事フルミッションサクセスを達成しました。SELENEについては、旧NASDA在籍時より縮小したとはいえ、軌道計画担当として開発に参加し、コンティンジェンシー時のリカバリー軌道の設計を担当しました。平成19年度の打ち上げ以降は運用にも参加し、クリティカルフェーズ中は軌道制御計画チームを実質的に率い、探査機を予定どおり月周回軌道に投入しました。またPLANET-Cについては姿勢軌道制御系開発の主担当として参加し、詳細設計を完了、開発が進捗中です。さらに平成19年度に発足した月・惑星探査推進グループの活動として「はやぶさ2」のミッション提案に、ミッション解析・システム設計担当として参加し、そのプロジェクト準備フェーズ移行にたずさわりました。
次に理工学委員会下のWG活動について述べます。まず小天体探査WGにコアメンバーとして参加し、ミッション計画・システム設計を担当しました。またJASMINE WGは国立天文台主導のWGですがJAXA/ISASを代表して参加し、観測手法の検討やシステム設計を担当しました。ソーラーセイルWGではH2Aピギーバック打上げにより惑星間空間で世界初のソーラーセイル展開・運用を目指すソーラーセイル小型実験機の開発を担当、その後「小型ソーラーセイル実証機」のプロジェクト準備フェーズ移行にたずさわりました。
次に学会運営・活動について述べます。まず平成17年度に京都で開催された"6th IAA International Conference on Low-Cost Planetary Missions(以降、ICLCPM)"、平成18年度に金沢で開催された"19th International Symposium on Space Flight Dynamics(以降、ISSFD)"の事務局として学会運営全般を担当しました。また"25th International Symposium on space Technology and Science(以降、ISTS)"ではオーガナイズドセッション"New Generation of Planetary Exploration"の編成(海外スピーカーの9名の招請を含む)を担当、平成19年度に開催された7th ICLCPM、および20th ISSFDにはプログラム委員としてプログラム編成に参加、平成20年度に開催される26th ISTSではアストロダイナミクス小委員会の副委員長を務めています。またJAXA/ISASで開催される宇宙科学シンポジウムについて、平成16年度から3年間、世話人としてシンポジウム運営を支えました。また、日本航空宇宙学会の海外協力委員を務めています。
その他の活動として、平成18年度に発足したJAXA横断の月惑星探査推進チームに参加し、「はやぶさ2」を中心とする将来の太陽系探査の検討、および「(仮称)月・惑星探査センター」の組織検討にたずさわりました。この検討を受けて平成19年度4月に発足した月・惑星探査推進グループでは、研究開発室・企画推進室に所属し、諸々の業務に従事しています。また、機械工学便覧γ編、航空宇宙工学便覧(第3版)の執筆にたずさわり、JAXA標準制定委員会・ミッション解析WGのリーダーとして、ハンドブック・設計表儒の執筆・制定にたずさわりました。

宙航空研究開発機構
宇宙科学研究本部

川勝研究室(宇宙航行システム、月・惑星探査)

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